アゲハチョウの幼虫は、なぜ誰にも教わっていないのにサナギの作り方を知っているのか?


「一番始めの人は、誰から生まれたの?」
これが、私が物心がついてはじめて母に尋ねた問いであり、私が記憶している最も古い問いです。

そして二番目に母に尋ねた問いが、
「アゲハチョウの幼虫はなぜ、誰にも教わっていないのにサナギの作り方を知っているの?」
でした。

まだ3歳か4歳の頃だったと思いますが、家族で飼っていたアゲハチョウの幼虫を見ていた私はそんな素朴な疑問を持ったわけです。
一つ目の問いについてはまた何れ触れるとして、今回は二番目の問いについて考えてみましょう。

結論から言うと、そんな幼児が考えた素朴な問いの答えは今でも良く分かっていません。
恐らく大人が子供に答えるとしたら、「本能だ」となるのではないでしょうか?
もちろん、この手の話はアゲハチョウの幼虫だけではありません。

蜘蛛(クモ)はどうして誰にも教わっていないのにあんな複雑な巣の作り方を知っているのでしょうか?
ハチやアリもどうして誰にも教わっていないのにあんな複雑な巣の作り方を知っているのでしょうか?
昆虫の行動だけをとって見ても、とても不思議なことがたくさんありますね。
もちろんこの手の話は他の生物でも同様です。ですが体も脳も極めて小さいのに複雑な行動をする昆虫は、最も私の興味を引かせる存在でした。
恐らく皆さんも、一度はそんな疑問を持ったことがあるのではないでしょうか?

蝶(チョウ)の脳の大きさは、縦・横・厚さ共に数百マイクロメートル、つまりコピー紙数枚の厚さ程度でしょう。
それでいながら蝶の幼虫は極めて複雑な行動をしますね。彼らは自分が食べるべき葉っぱも知っているし、サナギを作る時期、そしてサナギの作り方を知っているのです。
彼らはサナギになる時には長期間体を固定するために適切な場所を探し、まるでロッククライマーが休憩時に命綱を設置するように糸で自らの体を固定します。まあ、実際に見ると不思議そのものです。

 


しかも彼らは機械のように決まった動作をするのではなく、人間が指で触ると臭いトゲを出したり避けたりと、まるで意思を持っているようにちゃんと臨機応変に行動をします。
更には、サナギは(敵に襲われないように)背景の色と同じ色になるため、それぞれ色が異なります。どうして彼らは背景の色を知っていて、サナギの色の変え方を知っているのでしょう? いえ、それ以前になぜ背景と同じ色にすると敵に襲われないと知っているのでしょうか?

はっきり言って、これらの行動をコンピューターシミュレーションで再現しようとしても、現時点では不可能です。
もしもプログラムコードを書けたとしてもどれだけの行数になるのか、またシミュレーション計算には日本最速のスーパーコンピュータ“富岳”を使っても何年かかるのか想像も出来ません。
それを幼虫は僅か1ミリにも満たない大きさの脳で行っているのです。

そしてこの蝶の幼虫の脳は、当然ながら蝶の遺伝子、DNAから作られています。
つまり蝶の設計図は脳を含め、全てDNAの中に書かれており、よってサナギの作り方もDNAの中に書かれていることになりますね。
DNAというのはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という4種類の塩基によって作られています。
つまり一つの塩基で4パターン、すなわち2ビットの情報を持てるわけです。

因みに蝶は分かりませんが、同じ昆虫のショウジョウバエのDNAは1億8000万個の塩基から作られているそうです。
つまりショウジョウバエのDNAが持てる情報量は、

2ビット × 1億8000万 = 45メガバイト

ですね。
今時のスマホは32ギガバイトや64ギガバイトの容量を持っているのが普通でしょう。
1000メガバイトが1ギガバイトなので、ショウジョウバエのDNAが持つ記憶容量(0.045ギガバイト)がいかに少ないかが分かるはずです。
この容量は、圧縮されていない高画質のデジカメで撮った写真一枚程度でしょうか。フルHDの動画なら、圧縮されたもので1分程度の容量ですね。

その中に全ての体の設計図と、複雑な本能を含む脳の設計図が含まれていることになります。そしてDNAの何処かの配列にはサナギの作り方が書かれているのでしょうか?
生物学者の中にはDNAに直接本能が書かれているのではなく、DNAから脳細胞が発現する時に本能も形成されると考えている人も居るようです。だとするなら、DNAに書かれているのは本能のメタデータということでしょうか?
うーむ。何というか、知れば知るほど不思議になってくるのは私だけではないはずです。

少し前にヒットした漫画、“寄生獣”の中に以下のような台詞があります。
「クモは教わりもしないのに巣の張り方を知っている。なぜだ?」
「私が思うにハエもクモもただ命令に従っているだけなのだ。地球上の生物は全て何かしらの命令を受けているのだと思う……」


さて、皆さんはどう思いますか? 漫画が言うように、昆虫はただ命令に従っているのでしょうか?
僅か45メガバイトそこそこの情報の中に、全ての行動が書かれているのでしょうか?

そしていずれは、昆虫の体と行動の完全なコンピューターシミュレーションが出来るようになり、最終的には人間のシミュレーションさえも出来るようになるのでしょうか?

少し考えてみてくださいね。
私の考える答えは今回は書きません。


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