日本の科学技術者はバカになったのか?  前編


本サイトには今まで出来るだけ時代依存や国依存のない話を書くよう努めてきました。
特に今回の内容は本サイトのメインテーマとはあまり関係ないため、書くかどうか迷いました。
この話はこれで最後にするつもりですが、現代の日本の科学技術界の声として、皆さんも是非考えてみてくださいね。
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ITの世界に限らず、他の業種でも日本が世界トップレベルの科学技術力を持つ工業大国だとは言い切れない、そんな昨今の世界情勢ですね。
今の日本は、いわゆる“GAFA”を始めとするカリフォルニアのIT企業を有するアメリカだけでなく、中国や台湾、韓国の企業にまで押されていることを認めざるを得ません。

若い世代の人は信じられないかもしれませんが、90年代頃までは日本の半導体は世界を席巻していました。当時、半導体は“産業の米”などと言われていたものです。
それが今はどうでしょう? 半導体といえば台湾かサムソンか、といった状況です。

パソコンの世界も昔はNEC製のPC-9801シリーズが日本ではデファクトスタンダードになっていて、アップル製のコンピュータを使っている人など少数派でした。
更にIBM製のPC/AT機やその互換機を使っている人などは、ごく一部のマニアだけでした。
また国産の携帯電話も優れていて、世界に先駆けてNTTドコモが発明したi-modeなどは通話以外の機能をいち早く導入し、ウェブ閲覧やメール機能、銀行振り込みなどのサービスを可能にした、元祖スマートフォンと呼べる程のものでした。

それが今はどうですか?
NECのパソコンは消え去り、i-modeも消え去りました。
パソコンと言えばPC/AT互換機(いわゆるWindowsマシン)か、Appleのマックだけです。
そして携帯電話の世界は、、、もはや言う必要もないですね……。

今では国内大手メーカーのテレビなどの家電製品にしても、中の部品を見れば殆どが台湾製か韓国製です。
インターネットの検索エンジンも昔は国産のものもありましたが、今では皆さんが使うのはGoogleですよね? 検索することを「ググる」と言うほどですから……。
また昔は老若男女、皆が見ていた地上波のテレビも今では広告費共々Youtubeに侵食されています。

その他にもネット通販はAmazon、動画配信サービスはNetflixかAmazon Prime。
SNSといえば昔は国産のmixiでしたが、今ではツイッターかフェイスブックかインスタかといったところでしょう。
その他にも宅配はウーバーだし、テスラの時価総額はトヨタを超えたし……。
なんだか悲しくなってくるのでもうこの辺にしておきましょう。

日本のエンジニア、いえ、科学技術者が世界の先頭を走っていたのは90年代初頭までであり、その後はバブルがハジケた勢いで(?)皆そろって”頭がバカになった”のでしょうか?
なんとなくそう思われている様な空気を私は感じます。実際に私も団塊の世代の元エンジニアたちが若い頃の武勇伝を語り、「今の若者はだらしない」と言っているのを何度か聞いたことがありますしね。

ですが実際には、日本の科学者も技術者も昔と変わらず世界でトップクラスに優秀であると私は思っています。
私は科学の世界にも技術の世界にも居たので、少しこっち側の我々の言い分も聞いてもらいたい、というよりもこれから皆で解決しなければならない問題として提起しておきましょう。
ええ、、、ここに書くからにはこれは冗談でもなんでもなく、とても深刻なお話なのです。

戦前の話は正確な情報が少ないため、ここでは戦後の話から始めましょう。
戦後、ボロボロになった焼け野原から日本は経済成長を果たし、短期間で世界第二位の経済大国になれた理由は何でしょうか?
まさか中東のように石油が突然湧き出たわけではありませんし、レアメタルの様な高価な資源が見つかったわけでもありません。また農業は減反政策などでむしろ下り坂になっていたでしょう。

日本が経済大国になれたのは、ひとえに“高い工業技術”によるものです。戦後の日本は工業立国なのです。
資源が取れなくても、土地が狭くても、工業技術が世界でトップレベルだからこそ経済大国になれたのですよ。
別に政治家や官僚、或いは銀行や投資家が優秀だったわけではありませんし、更に敢えて言うならば経営者が世界でトップレベルに優秀だったわけでもありません。
もし良い製品が作れなければ、彼らに出来ることなど非常に限られていたでしょう。いわば彼らは“良い製品”という、強いカードを持ってポーカーに参加しているのですから、よほど判断をミスらない限り勝てるのです。

ここで非理科系の人のために、工業と科学の関係を完結に書いておきましょう。
科学と工業というのは切っても切り離せないものであり、工業のベースには必ず科学があります。
科学の世界には“応用”という言葉がしばしば使われます。
例えば物理の世界にも、応用物理と呼ばれるものがあります。大学の学科でも“応用物理学科”が有ることが多いでしょう。
そして同じ大学に同時に“物理学科”も存在しています。この前置詞のない物理学のことを“基礎物理”と言ったり、“ピュアフィジックス(純粋物理)”と言ったりします。
一見すると、応用が付く方がレベルが高くて高度なことをやっていると思いませんか?
学校の問題集であっても基礎問題と応用問題があるならば、大体応用問題の方が難しいですよね。

ですが“応用物理”の”応用”の意味をわかりやすく言えば、「工業に近い」なのです。
つまり実際に製品や商品を作るために物理学を応用した学問という意味です。もっと乱暴に言えば、金儲けに繋がり経済のためになる学問とも言えるでしょう。なので応用物理学科は、普通は理学部ではなく工学部に入っているはずです。

対する前置詞なしの“物理学科”は工業とは全く関係ありません。これは純粋な学問です。
なので金になるかとか、便利な道具を作れるかとか、世のため人のためになるかなどはどうでも良いのです。
つまり純粋に人間の知識欲を満たしてくれる、ただそれだけに価値がある学問なのですよ。
なので例えば宇宙の構造の話だとか、ブラックホールの話だとか、素粒子の話だとか、経済的には一文にもならないことを研究しているわけです。
よってこっちは、ただ「知りたい」と思う気持ちが強く、その答えを探求することが何よりもかけがいがないと思っている人達が集まる場所なのです。

さて、では基礎と応用のどちらの方がレベルが高いかといえば、理系の人ならばみな知っていると思いますが、圧倒的に“基礎”の方です。優秀な頭脳の多くがこちら集まっていて、実際に大学の偏差値も高いはずです。
因みにこれは日本だけの話ではありません。例えばニュートンもアインシュタインもホーキングも、歴史に名を残すような科学者は殆どがこちら側の人間です。

つまり“応用”と名がつくものは、あくまで工学の一部でありエンジニアリングの分野であると言えるでしょう。

続く……。

 
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