物理学の殆どは解けない(後編)


すっかり数値計算に目覚めた私は色々なシミュレーションプログラムを作って走らせました。
はじめて惑星の運動をオイラー法でシミュレート出来た時には感動したものです。何せ、ニュートンのあんなに単純な万有引力の方程式から綺麗な楕円軌道が描かれるのですからね。

壮大な惑星の運動を目の前の小さなパソコンでシミュレートできることに対しては、日常に於いて他のことで感じる面白さとは別次元の“背筋がゾクッとする”ような面白さを覚えたものです。
そして数値解法で色々な物理モデルを解いた私は、今までの物理学は、この世界のごく一部しか見ていなかったことを知ったのです。

当時はちょうど高性能なコンピューターの登場により、カオス理論やフラクタル理論のような新しい分野が生まれた時代でした。
コンピューターの登場でこれから科学の世界が大きく変わるのだと、私も確信に近いインスピレーションを得たものです。
 
そして今になって振り返ればその本に書かれていたことは当たっていましたね。現代を見れば、あらゆる場所でコンピューター・シミュレーションが使用されています。
今では精密な機械の代表である自動車だって、殆どコンピューターの中で作られているのですよ。
これはコンピューターを使って自動車を設計しているという意味では無く、コンピューターの中に仮想的な自動車を物理シミュレーションにより作り上げているのです。

例えば自動車の衝突安全性テストは実際に車体を作ってクラッシュさせなくても、コンピューターの中だけでシミュレーションによるクラッシュテストが出来るため、とても安価に何度も実験が出来るのですよ。現在の高性能な衝突安全ボディーはそうやって作られています。
空気抵抗の少ないボディー形状の設計も、昔は実際に小さいボディーを作って風洞実験をしていましたが今は殆どコンピューターの中だけで完了します。

他にもスマホやパソコンの心臓部のCPUだって、半導体回路のCADとシミュレーター機能が一緒になっているソフトの中で全てが作られているのですよ。つまり、実物を作る前にCPUに電気を流すとどのように動くのかが、事前に分かるわけです。
これは正に、実験しない実験物理ではありませんか!!
 
ついでに言うなら、昨今の3Dゲームも同様に高度な物理シミュレーションを行っています。
現代を生きる皆さんは当たり前だと思っているかもしれませんが、これらは極めて高度な技術なのですよ。
大学時代の私から見たら、まるで夢のような世界なのです。
 
これらのシミュレーションは全て、“物理学とコンピューターの合わせ技”で実現されています。
 
始めの方に“この世界は数学で出来ている”と言いました。ですがそれだけではこの世界は成り立ちません。
この世界は、

数学を計算するための道具とセット

なのです。
 
余談ですが、数値解法を知った大学一年生の私は「やはり物理学は真理に繋がっているのかもしれない」と思い直しました。ですがその真理への扉はきっと、コンピューターが開けるのではないかと何となく考えていました。
そして正直に言うと、殆どの問題を解くことが出来ない数学への興味が下がり、逆にコンピューターへの興味がガツンと上がって、大学時代はプログラミングに明け暮れる日々を送る結果となりました。


以下、おまけです:

数値解法に取り憑かれた私は、今で言う分子動力学のシミュレーションや惑星の3体問題のシミュレーション、カオスやフラクタルシミュレーションなど様々なプログラムを、自分でアルゴリズムを考えて書きまくっていました。
やがてCPUの計算速度の遅さに限界を感じた私は昼食を水だけにし(笑)、当時は高価だった数値演算コプロセッサを買いました。
これは浮動小数点演算を10倍近く速く計算してくれる優れものでした。(因みにコプロセッサは初代Pentium以降のプロセッサには全て内蔵されています)
ですがそれを持ってしても銀河のシミュレーションは歯が立たないほど計算量が多く、途中で挫折しました。

因みに分子動力学のシミュレーションはなかなか興味深い結果が出ました。熱がどのように伝わるのか、どうしてエントロピーは増えるのかなどがアニメーションを通じて良く理解できたのを覚えています。
そしてシミュレーションの結果、初期条件によってはエントロピーが減ることが有ることも確認できたので、「この宇宙に於いてエントロピーが増える理由は、初期条件がエントロピーが増えるように設定されていたからだ」という言葉を添えて、シミュレーション結果を全てをレポートにまとめて大学の物理の先生に渡しましたが、ポカンと口を開けただけでノーリアクションでした(笑)。

出題してもいないレポートを出す学生が珍しかったこともありますが、更に内容がぶっ飛んでいたようです。
まあ、当時はまだそんな時代だったのですが、、、
因みに後に、教授会などで「今年は面白い学生が入ってきた」と話題になっていたそうです。

大学一年の年は、大学の講義はたいそう退屈でしたが、パソコンのおかげでとても充実していたのを覚えています。(ついでに情報処理技術者の資格も取っちゃいましたしね)
因みにプログラムと言えば当時はまだ新しかったC言語を独学でマスターして、暫くはフロッピーディスクでコンパイルをしていました(笑)。これは死ぬほどコンパイルに時間が掛かるのですが、ハードディスクなんて当時は高価でなかなか買えなかったんですよね。

これらは全て19歳の頃の話ですが、このときの経験が既に、今に繋がっていたような気がします。


さて、ある日。も含めてちょいちょい自分の経験談(自分語り)を入れていますが、これらは「ヒューマンな話も入れた方が読みやすいかな?」と思って入れているだけなので、別に無くても良いものです。
皆さんはこれらの自分語りがあるのと無いのとどちらが良いでしょうか?
良ければアンケートフォームから教えてください。「無い方が良い」という意見が多ければこれからは省略します。

念のために書きますが、アンケートは名前やメールアドレスなどの個人情報は全て省略可能です。
モチベーションになるので、是非遠慮無くご感想、ご要望など、下さいね。
 

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