日本の科学技術者はバカになったのか?  中編


さて、本題に戻しましょう。
では基礎科学が全く工業の役にも立たなければ経済にも影響を与えないかと言えば、そんな事はありません。ただタイムレンジが違うだけなのです。
工学は数年から20年以内程度の実用化を目指すのに対し、基礎科学は数十年から100年後に役に立つ可能性がある、といった感じです。
基礎科学の場合は先述の通り実用化や商業化を目指しているわけではありませんが、歴史を見ると結果的にそうなっている事が多いです。
例えば昔、“電気”を発見した科学者がいましたが、彼はそれが何かの役に立つと思って研究していたわけではありません。
でも現代を生きる皆さんは考えられますか? 電気のない世界を。

こういった例は、原子力にしても量子コンピュータにしてもしかりです。
既存の何かを組み合わせたり改良したのではなく、“無”から“有”を作ったのは殆どが純粋な科学者たちです。

基礎科学というのは一般に実用化されるまでのタイムレンジは長いですが、その代わりに世界に変革をもたらすレベルの発見や発明をするのですよ。つまりこれは未来への“種まき”のようなものなのです。

そして日本は昔から、この基礎科学の方を疎かにしてきました。
もちろんやっていないわけではありませんが、アメリカなどと比べると遥かに予算も少ないし、人材も少ないでしょう。人材が少ないというのは、研究職が殆ど存在しないという意味です。
例えば物理学の世界でプロの研究者になろうと思ったら、実質的に大学の教員になるしか方法がありません。そしてその教員も定員が少ないので、どこかの大学の先生が定年で辞めるのを待つしかなく、大学院を卒業後に非常勤講師をしながら10年以上空きを待つなんてことはザラなのです。

なのでせっかく大学院まで行って博士号をとっても、その殆どが民間企業に就職し、物理とは関係のない仕事をして人生を終えます。(ついでに言うなら、物理学科卒は工学部卒と比べて企業から敬遠されるため就職には不利でした)
特に物理学科は偏差値が高いため受験も大変だし、大学に入ってからも単位取得が難しいため進級するのも卒業するのも大変です。
そしてトドメに就職にも不利と来たら、よほどの“ドM”じゃないと物理学科に行くのは無理だなんてジョークがありました(笑)。
私も多くの大人たちに反対されたものです。

そんなお世辞にも恵まれているとは言えない環境で、日本の科学者たちは大きな成果を出してきました。
これは例えばノーベル賞受賞者を見ればわかるはずです。科学者が殆どで、特に物理学賞が一番多いですよね?

因みに大きな成果を出しているのは物理の世界や科学の世界の話だけではなく、数学の世界やコンピュータの世界でもびっくりするところに日本人が絡んでいたりするのは良く有ることです。
例えば”フェルマーの最終定理”の証明だったり、最も有名な仮想通貨“ビットコイン”の作者がサトシ・ナカモトであることは有名ですね。(彼が日本人かどうかは不明ですが)
またWindowsでおなじみ米マイクロソフト社が、創業して間もない頃にビル・ゲイツと共に会社を大きくしたのは当時の副社長に抜擢された日本人の西和彦さんでした。

その他にも、物理やコンピュータの世界の大きなイベントに日本人が絡んでいることは数多くあります。
ここではじめのテーマに戻ります。

日本の科学技術者はバカになったのか?

私の肌感覚では、今も昔も能力はほぼ変化していないと思います。
では一体何が変わったのでしょうか? そしてこの現状は一体、誰の責任なのでしょうか?
それは、非理科系の世界の人間や組織だと思います。

バブルの頃、企業の持つ技術や特許を見抜く見識もなければ見る気もない銀行らは、融資先の企業がただ担保となる、土地やビルを持っているかどうかだけで融資の判断を決めていました。
そんなことを繰り返しているうちにバブルが崩壊し、土地やビルの価格が暴落し、銀行は不良債権(貸し倒れ)の山になったのです。あの時に会社が持つ土地ではなく技術を見ていれば、きっと結果は異なっていたことでしょう。
知ってのとおり、バブル崩壊後は多くの銀行が破綻して統合、併合の繰り返しですよね?
しかもその後、ちょうどGAFAら(アップルを除く)が創業した時期には貸し渋りが酷く、その方針を改めることはありませんでした。

結果、多くのメーカーが倒産したり研究開発費が調達できなかったりしたわけですが、それは科学技術者の責任ではありませんよね?
まあこの手の話はステレオタイプなのでこの辺にしておきましょう。

続く……。


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