この世界は数学で出来ている(前編)


 
さて、ディープラーニングって本当は何が凄いのか に「この世界は数学で出来ている」と書きました。
でもそれだけでは多くの人は意味が良く分からないと思います。今回はその話を少し詳しく書いてみましょう。
 
この世界は数学で出来ていると私が考えるのは、この宇宙に数学に反するものがまだ見つかっていないからでした。では数学に反するものとは具体的にどういったもののことなのでしょう?
それは、一言で言うなら

“完全にランダムなもの”

です。
これを日本語を使って言うなら、“何の法則性も無い支離滅裂なもの”でしょうか。
 
また少し自分の昔話をしてみます。
私がはじめてパソコンに興味を持ったのは小学5年生の時でしたが、その頃にちょうどデビューしたのが任天堂の”初代ファミコン”でした。
私も他の子ども達の例に漏れず「ファミコンが欲しい!」と親にねだったのですが、父の「パソコンならばゲームを作ることだって出来る」という一言に衝撃を受けて気が変わったのです。
しかしながら私がパソコンの勉強を始めてから一番興味を惹かれたのは、CG(コンピューターグラフィックス)でした。
なぜそれほどCGに惹かれたのかは自分でも良く分かりませんが、パソコンショップに展示されているデモ機が描くCGに少年の私は取り憑かれてしまったのですよ。

11歳の誕生日プレゼントにパソコンを買ってもらってからも、CGの本をたくさん読み、色々なプログラミングをしたものです。
一応ゲームも作りましたが、私が作ったものは殆どがCGにこだわったアドベンチャーゲームでした。
 
そして時は流れ、大学に入って新しいパソコンを買ってからも私はCGに、中でもとりわけ3DのCG(以下CG)に惹かれ続けていました。
当時は“レイトレーシング法”と呼ばれる手法で描かれたCGが流行っていましたが、そのCGがあまりにリアルなので驚いたのをよく覚えています。まるで「これは写真か?」と思うほどの出来だったのですよ。(今では当たり前ですが……)

レイトレーシング法は光の反射を精密に計算していく手法で、現実の世界の光の挙動を数学的にシミュレートしたものです。
そう、写真のようなCGを描くためには”数学しか使っていない”のですよ。
無機質なコンピューターによって描かれるCG。数式の計算のみによって描かれるCG。
そこから現実世界と見まごうような絵が生まれてくることは、私にはとても不思議でした。
 
しかしながら当時のCGは金属の単純なオブジェクトやミラーなどの平坦で単純な物体を描いたものが殆どでした。



図1 レイトレーシング法にて描いた単純なオブジェクトのCGです。(自作)


ですが現実の世界の風景は、どう見ても計算では描けない複雑で乱雑なものばかりです。
山や川や雲の造形、海や湖、木や森や様々な植物。風景写真を一枚撮れば、それはおおよそ数式では表せない物であることが分かるというものです。
 
ちょうど私がそんな事を考えていた大学入学当時にブームになっていた新しい理論が、”フラクタル理論”でした。
早速買って読んでみたフラクタル理論の解説書には、何と自然界の造形のような不規則で複雑な形をしたものも、実は殆どが数学で表わすことが出来ると書いてありました。正に「ほんまかいな?」です。
そして論より証拠で、その本にはフラクタル理論を使って描いた絵として、一枚のCGが載せられていました。それは山と空と湖が描かれた綺麗な景色の絵でした。そのCGはとても写実的あり、何度見ても写真かと見間違えるほどでした。

最近はあまり流行りませんが、以下のリンクにフラクタル理論によって描かれたCGがいくつか載っています。

terrain.jpg (720×540) (mathigon.org)
Fractal Mountain Landscape Stock Illustrations, Vectors & Clipart

 
本にはその他にもフラクタル理論を使って描いたCGとして仮想の惑星のクレーターの画像や、更に大木や岩などのオブジェクトも載っていました。しかも私にはどう見てもそれが写真にしか見えないクオリティーだったのですよ。

フラクタル理論だって単なる数式の組み合わせです。なのにこれらの写真のようなCGが数学的な計算だけで描かれていることには感嘆するしかありませんでした。
フラクタル理論の本を読んだ私は、自然界の一見不規則に見える造形の多くがフラクタル構造をしていることは理解できました。
ですがすぐに私の頭には次のような疑問が湧いてきました。
それは、

「なぜ自然界はフラクタル構造をしているのだろう?」

でした。
しかしながらフラクタル理論の本にはその答えは書かれていませんでした。
自然界が「どうなっているか」は説明しますが、「何故そうなっているか」の説明はありません。これはフラクタル理論に限らず私がいつも経験することでした。

まあそれはそれとして、当時の私は自分のパソコンでフラクタル図形の代表格である“マンデルブロー集合”を描き(計算に二日かかりました)、自己相似形をしているというそれを虫眼鏡で拡大してみましたが、モニターの画素以上の世界は見られないことに気づきました(笑)。(笑い話ですが、これは量子力学を理解するために結構重要な話だったりします)

そしてパソコンの画面に描かれたフラクタル図形を見ながら私は、一見雑然として不規則に見えるものであっても、その背後には見えない綺麗な法則が働いている事を知りました。そしていつかその法則の全てを知りたいと思ったのです。
 
余談ですが、もしも現代のディープラーニングで風景写真を機械学習すると、いつの日かその中に特徴表現の数式としてフラクタル理論の数式に近いものが現れるのではないか?なんて妄想をしています。
 
話を戻しますが、一見ランダムで無秩序に見えるものであっても実はそうではなく、我々が気づかなかったり知らないだけで数学に則っている事が多いのです。
 
例えば“確率”なども面白い理論です。サイコロを振ったりルーレットを回したりするとその結果は決まっておらず、一見するとランダムに見えますが、そうではありませんよね?
確率の本当の意味 に書いたとおり、実はこれらも確率の数学に綺麗に従っているのです。

確率の数学は確かに“次の一回”に対しては予測することは出来ませんが、実験回数が多くなればどのような結果に収束していくのかは正確に予測することが出来ましたね。
そして統計学などは更にこの世界のあらゆる確率を数学的に説明しようとする理論です。
例えば”ポアソン分布”は、大昔に”馬に蹴られて死ぬ兵士の数”を計算にて予測するために生まれた数式です。それも見事にピタリと当てていたそうですよ。

因みに同様の統計学を使った計算が現代では保険会社で行われていますね。自動車保険にしろガン保険にしろ保険会社が赤字にならないのは、現代に於いても事故や病気に遭う人の数が綺麗に数学に従っている証拠です。

 
この様に一見ランダムに見えるものであっても、その裏には必ず数学的な法則が存在しており、そうでないものはまだ発見されていません。
因みにもし発見されるとしたら一体それはどんなものでしょうか?
それは”何の法則性も無く、完全な支離滅裂で予測不能なもの”ということになります。これは最上位を“理”としたこの宇宙では“無い”としたものでしたね。
もしその候補があるとしたら皆さんなら何を思いつきますか? 私なら”女心”でしょうか(笑)。
 

実際に今までに多くの著名な物理学者達が異口同音にこの様に言っています。

「もしも神が居るならば、彼はきっと数学者だろう」


私が子どもの頃からずっとCGに惹かれていた理由が少しだけ分かったような気がしました。
きっとそれが、真理に繋がっていたからでしょう。


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