“上位概念”を考える


さて、あまり時間に余裕がないのでそろそろエンジン掛けていきましょう。

”上位互換”、”上位概念”。
これらの言葉は日常的に見かけることもありますが、この概念について少し考えてみましょう。

前に物理学に於いての最終的な理論について解説しました。これは全ての大元になる理論でしたね。
今回はもう少し日常的な例を用いて、“上位概念”を考えていきましょう。

はじめにここでは“上位”のものは、それより“下位”にあるものを全て包摂していると定義します。

例えば、犬と猫は全く別の生き物に見えますね。
ですが犬の上位概念は哺乳類であり、猫の上位概念も哺乳類です。ついでに言うなら、人間も哺乳類ですね。
つまり哺乳類という概念は、犬にも猫にも人間にも全てに当てはまることになります。逆に言えば、哺乳類という概念には犬も猫も人間も含まれていることになりますね。

では蛇(ヘビ)やカエルはどうでしょう? これらは哺乳類ではありませんね。蛇は“爬虫類”と呼ばれるもので、カエルは“両生類”です。また魚は全て“魚類”で、鳥はみな“鳥類”ですね。
ですが、哺乳類の上位概念である“脊椎動物”は爬虫類の上位概念でもあり、両生類、魚類、鳥類の上位概念でもあります。
脊椎動物とは簡単に言えば“背骨が有る生物”のことで、この中に昆虫やミミズ、クラゲなどは含まれませんね。

では昆虫類や他の背骨を持たない生物の上位概念は何でしょうか? 例えば多細胞生物でしょうか? これならば、植物も含まれるでしょう。
まあ生物の分類の話はもっと細かく出来るのでしょうが、重要なことは以下のとおりです。

下位概念のものは、上位概念の特徴を全て含んでいる。

多細胞生物よりも上の概念を追っていくと、アメーバやバクテリア、細菌なども全て含む概念として“生物”となるでしょう。
ウィルスが生物かどうかは議論が分かれるところですが、まあこれも遺伝子(DNA)の様な物を持っています。
なので生物の最上位概念は、“遺伝子を持つもの”となるでしょうか。ありとあらゆる生物は、遺伝子を持つのです。

さて、では生物と”鉄””石”などの共通の上位概念とは何でしょうか? これらはみな“物質”ですね。
そして物質とはすなわち、“原子から出来ているもの”です。つまり、“原子で出来ているもの”があらゆる物体の最上位概念になりそうですね。
犬も人も木も地球も、全てがこの概念の下位になります。だって生物も鉄も人工物も全ては原子から出来ているのですからね。

ちなみに古代にはこの原子こそが、究極の上位概念だと考えられていたようです。
ですがこの世界には原子から出来ていないものが沢山あります。例えば光や電気、放射線もそうですね。重力の力も原子ではありません。
そして、この世界は何からできているのか に書いたとおり、原子も分解すると”素粒子”から出来ており、光や放射線や重力も辿れば素粒子から出来ています。よって少し前までは、素粒子が全ての上位概念だと思われていたようです。

しかしながら最後の上位概念だと思われていた素粒子は、超弦理論によると“ひも(超弦)”から出来ていることになります。
つまり、犬も猫も人間も元をたどっていけば”ひも”で出来ているわけです。
では超弦理論の“ひも”こそが最上位概念でしょうか?

物理学の話は確かにここで終わりになりますが、哲学的に言えばまだ先に上位概念があります。
それは“有”です。つまり「存在している」という意味ですね。“ひも(超弦)”も存在しているものの一つですから。

いえ、正確に言うと“ひも(超弦)”を存在しているとするべきかどうかは物理学の世界でも意見が別れていて難しいのですが、ここでは取り敢えず存在していると仮定しましょうか。

では更にその上の概念はないでしょうか?
“有”以外のものといえば、当然、“無”です。まあ当たり前ですね。

そして実はこの“有”“無”の上位概念を考えた人が昔、いたのです。
その人は、この最上位概念を“空(くう)”と名付けました。その人物とは、皆さんご存知の“釈迦”です。

これはまた後に詳しく書きますが、上記の通り超弦理論の“ひも”は存在しているともしていないとも言い難いものです。
なにせとてつもなく小さい上に太さがなく、11次元の次元数を持っている“ひも”なのですからね。

更に素粒子というものは実は、真空の宇宙空間の中で絶えず生まれたり消えたりを繰り返しています。生まれる粒子は、粒子と反粒子のペアであり質量を持ちますが、お互いがくっ付くとエネルギーを放出して消えます。ですが生まれてから消えるまでの時間は短すぎて普通は観測できません。つまり”ひも”からなる素粒子は、突然現れたり消えたりします。
(この話は難しいので、とっても簡単に書いています)

”超弦(ひも)”は何にでもなることが出来るし、何にもならないこともできるのです。つまり”有”になるポテンシャルだけを持つもの。
これは正に“有”“無”の両方の性質を持つものと言えるでしょう。
なので”超弦”は有るとも無いとも言い難く、正に“空”だと言えると私は考えています。

つまり仏教で言うところの”空”を最新の科学で言えば、超弦理論の”ひも”だということです。

仏教(東洋哲学)と物理学の説明ではここで終わりでしょう。
両者ともに最上位概念は、”空”や”超弦”であり、最下位は“矛盾”で閉じている世界を表します。
矛盾というのは情報が多すぎる物を指します。例えば、「人間であり、無脊椎動物である」。
これは人間であるという情報か、無脊椎動物であるという情報のどちらか余分なので両立できないのです。”矛盾”についての説明は不完全性定理は神の不在を証明したのか を参照。

ちなみに下位概念は上位概念の全ての特徴を持つので、情報量は上位に行くほど少なくなりますね。
例えば「人間である」、という時点でその上位である哺乳類や脊椎動物、原子から出来ているという情報の全てを持っていることになりますから。下位に行くほどより具体的になり、情報量が多いのです。
つまり“空”は、情報量が最も少ない物を指すことになります。

とまあ、一般に言われている哲学ではここで終わるようですが、本サイトがここで終わっては面白くありませんよね?
果たして”無”と”有”の上位概念である“空”こそが、本当に最上位概念なのでしょうか?

その前に、この世界で“空”以外のものとは、一体何でしょう? それはただひとつ、“人間の心”です。
”心”というのは定義が難しいですが、これは仏教で言うところの“アートマン”ですかね。
これは”自我”、”意思”、”心”などを包括する意味の言葉です。ちなみにこの中に人間の感情は含まれません。というより私はそう定義しています。(仏教の教えがどうかは知りません)
なぜ”超弦”以外のものが人間の心なのか、恐らく今は言っている意味がわからないと思いますが、これについては後ほど詳しく説明しますね。

さて、人間の心は一旦置いておいて、では更に空よりも上位の概念は存在するでしょうか?
「無でも有でもないもの以上の概念などあるはずがない」。そう思う人も多いかもしれませんね。ですが私は有ると考えます。

それは

“理”

です。 ”理”は“ことわり”と読んでも良いでしょう。これは論理の”理”であり、真理の”理”です。物ではないので、物理の”理”ではないとした方が良いでしょうか。

“理”とはつまり、秩序ある法則のことです。
これは支離滅裂ではない法がこの世界には有るという意味です。超弦にしても物理学の数式通りに現れ、その性質を持ちます。素粒子が”無”から”有”になるときにも、必ず量子力学に従います。

この宇宙には支離滅裂で何の法則もないものなど存在しません。これこそが、この宇宙の最上位概念ではないでしょうか?
ちなみに宇宙誕生のビッグバンですら物理法則に従っています。つまり“空”とて”理”に従うのです。
正にこの宇宙は数学で出来ていると思わざるを得ませんん。

仏教の話は置いておくとして、“空”の概念は重要なので覚えておいて下さいね。

さて、では更に“理”よりも上の概念はないでしょうか?

“理”とは秩序ある法則だとすると、“理”以外のものとは何でしょうか?
実在するかどうかは置いておいて、否定語を使わずに述べるならば“支離滅裂”という言葉が当てはまるかもしれませんね。
そもそも東洋哲学でも西洋哲学でも“空”よりも上の概念なんて定義していないはずなので、既存の言葉で当てはまるものなど無いでしょう。なのでここでは“支離滅裂”としておきましょう。

さて、では“理”と“支離滅裂”の上位概念とは何でしょうか? 
”理”とはあくまで「この宇宙の中の法」です。ではそれ以外をも含む上位概念とは何でしょうか?
これももちろん、既存の言葉にはありません。なのでその概念はこの宇宙の外をも包摂するとして、私が

“メタ”

と名付けましょう。
英語で申し訳ありませんが、“外”ではダサいですからね(笑)。
そして実際にこの“メタ”という言葉は、この概念に対して実にピッタリなのです。

メタという概念の解説はまた改めて詳しくしましょう。ですが一般に使われている言葉で言うと、デジカメで撮った写真の“メタ情報”のメタであり、漫画の“メタ発言”のメタと同様です。
コンピューターの世界ではメタという言葉は良く使われていますね。そのメタと同意であると思っていただければ、大体正しいでしょう。

さて、では更にメタよりも上位の概念は有るでしょうか?
あるかもしれませんが、私はこれが人間の頭脳の限界だと考えています。
例えるなら、海を泳ぐ魚が海の外の世界までは概念として持てるかもしれませんが、更に地球の外である火星やアンドロメダ銀河の概念を持つことが出来ないのと似ているかもしれませんね。

なのでこの話は、“メタ”で終わりにしておきましょう。

 
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