チェス盤の後半


言語生成AIのChatGPTについてはニュースなどで今年は本当によく報道されていますね。更にChatGPTは国会でも話題になったりと、AIは今とてもホットな話題になっています。
また将来が有望である新しい職業として、AIに指示を与える文章を考える専門家である、“プロンプト・エンジニア”なるものが話題になったりもしています。

そしてChatGPTもバージョン4が公開され、大きく性能が上がっているとされています。
マイクロソフトが自社の検索エンジンであるBingにこれを搭載したことが話題となりましたね。
またそれに対抗してGoogleもBardというAIを公開する予定だそうで(現在は試験運転中)、これはChatGPTよりも高性能だという噂もあります。

つまり昨今のAIの進歩はめざましく、これからの社会に大きな影響を与えます。

「そんなことは皆、十分わかっているよ」

そう思っている方が多いかも知れませんが、はっきり言いましょう。

「わかっていません!」

ええ、全くわかっていません。
実際にAIの進歩がこのスピードで来ることなど、誰にも予測出来ませんでした。
日本が今すぐにやらなければならない事 を私が書いたのはまだ僅か3年前のことです。

皆さんは今でもAIやAIを搭載した機械が人間に完全に置き換わって、人間の仕事が無くなる未来なんてまだずっと先の事だと思っていませんか?
「いつかそんな時代が来るのかなあ」程度に思っていませんか?


今からちょうど十年前に出版されて私も大きな影響を受けた書籍、“機械との競争(エリック・ブリニョルフソン 著)”はそんな未来を既に予測していました。
この書籍の中にコンピューターの性能進化のスピードをチェス盤に例える話が載っているので、ここで紹介してみようと思います。

チェス盤については知っていますか? 以下の様な8×8のトータル64マスのボードです。



そしてチェスの発明者についてはこんな逸話が残っています。

昔、チェス盤を発明した男が王様にチェス盤を一つ献呈したそうです。王様は喜び、男に褒美を与えると言いました。ところが数学に通じていたこの男は王様に米を所望したそうです。そして男は、一日目にチェス盤の最初のマス目に米粒を一粒、そして二日目には次のマス目に二粒、三日目には三つ目のマス目に四粒と言った具合に、毎日前のマス目の倍の米粒を新しいマス目に置き、最後までそのマス目に置かれた数の米粒を貰いたいと言ったそうです。王様は容易い褒美だと笑って快諾したそうです。ですが実際にやってみると、途中で王様はこれがとてつもない量になることに気づいたのです。最後のマス目になるとその米粒の数は二の六十四乗個で、およそ四千億トン。これは積み上げると、実に富士山四個分にもなるのです。結局、途中で王様はその男に謝り、褒美を撤回したそうです。


コンピューターの世界には“ムーアの法則”と呼ばれる有名な法則があります。
これは集積回路の集積密度は、、、簡単に言うと、コンピューターの性能は18ヶ月で2倍になるというものです。
これについてはいずれ技術の壁に当たり、いつまでもそのペースは維持できないだろうと何度も言われてきましたが、現実にはその度に新しい技術が開発され、依然として同じ進化のスピードを維持しているとされています。
まあこれについては近い未来に限界を迎えるとされていますが、量子コンピューターが実用レベルになればまた話が変わるかも知れません。と言うか、変わるでしょう。

上記のチェス盤の話とムーアの法則は、どちらもある一定期間ごとに二倍になっていく部分において同等です。そしてチェス盤の話のポイントは、前半はその米粒の多さに気づきにくい所です。実際に王様も始めのうちは気づかなかったように。ですがチェス盤の後半に入ると指数関数が効いてくるのです。そしてコンピューターの発明時期から計算して、現代のコンピューター技術はちょうど、チェス盤でいうところの後半に入って来ているのです!

AIの進歩が今後の社会に与える影響の大きさを本当にわかっている人とは、チェス盤の最初のマス目では一粒から始まった米が最後には富士山4つ分になることをわかっている人のことです。
だから皆、分かっていないと言っているのですよ。

ムーアの法則はハードウェアだけの話ですが、AIはソフトウェアも同じくらい重要です。
つまり、AIによる機械学習量が増えれば増えるほど、その性能は爆上がりすることになるのですよ。そしてその上がり方も線形ではなく、チェス盤の例の様に指数関数的になるはずです。
だって次は性能が上がったAIで、金利で言うところの複利で学習するのですからね。
そして昨今のAIの性能を見ていると、AIのステージは明らかにチェス盤の後半に差し掛かったと考えるべきです。

結局、私が何が言いたいのかって?

つまり、私の言葉で言うところの満腹パイの時代は、10年以内にやってくる可能性があるということです。ええ、100年後でもなければ50年後でもなくです!
因みに落合陽一氏は、シンギュラリティーは35年以内ではなく5年以内に来ると言っていましたが、その話も決して極端ではなく、この一年間でのAIの進歩を見ていれば納得せざるを得ません。

もちろん、制度や法律を整えて実際に全ての労働をAIを搭載した機械がやるようになるにはもう少し時間が掛かることでしょう。ですが“技術的には”数年後に既に可能になるのですよ。そして技術的に可能ということは、きっかけさえあればあっという間に出来ると言うことです。そう、コロナがきっかけでリモートワークが瞬く間に普及した様に。

これらを踏まえて私が一番何が言いたいのかというと、、、まあ言うべき事はたくさんあるのですが、その中の一つは満腹パイの時代に備える時間がもう殆ど無いということです。
つまり、メタフェイスを急いで作らなければなりません。

対処療法としてAIの開発を一時中止するという方法もありますが、恐らく人類はその選択肢を選ぶことはないと思われます。
ましてやAIのトップランナーは全て海外勢ばかりであり、遅れている日本に一体何が出来るのでしょうか?
これ以上AIが日本に入ってこないように、鎖国でもしますか?(笑)

どうやら人類が最も大きく変化するその瞬間に、たまたま我々の世代は立ち会ってしまったようです。
よって我々にはそれ伴う問題を解決する責任があるのですよ。

現在において皆さんの頭の中の多くは、きっと仕事にまつわることで占められているのではありませんか? 
日々の具体的な業務もそうですが、例えば十代の頃から良い仕事に就くために学歴を身に付けるだとか、就職をしたらスキルアップや将来の出世や転職の事などを考えていませんか? 
学生時代も社会人になってからも、突き詰めると職と収入にまつわることが人生の価値観の多くを占めていませんか?

これを一言で言うなら、ずっとお金に価値を置いた考え方”をしていませんか?

もしも十年以内にそれらが消滅する未来となったなら、代わりにその先はどんな価値観を重要視して生きていきますか?
将来の職業や収入に全く関係なくても、子どもの頃から塾に通って頑張って受験勉強をし、大学に行って学問を学びたいですか?
少なくとも私の世代には、そんな人は殆ど居ませんでした。

労働から解放されたその先、人類はどんな価値観を持ち、何を目的として生きていくのですか?

この状況をまたわかりやすい(?)バイオハザードの例えで書いてみましょう。
もしゲームのバイオハザードで、ゲームの中で自動的に全てのゾンビを倒してくれてパズルも解いてくれて、ゴールまで導いてくれるロボットを作ったとしましょう。
さて、プレイヤーである人間は何をするべきですか?(笑)

私だったらその自動ロボットの使用を禁止します。だってつまらないですから。
ですが実際にはその選択肢は不可でしょう。
そして我々はもうすぐそれに似た事を実現しようとしているのです。


労働にまつわることを一切しなくなった時に人はどんな価値観で長い人生を生きるのか?
もし答えをお持ちの方が居ましたら、是非教えて下さい。
私の考えは、今後じっくりと書いていきます。

何度も言いますが、その日はすぐそこまで来ています。
どんなに遅くとも、今生まれている子ども達が成人する頃にはそうなっているでしょう。
そしてそんな社会に彼らを送り出す事に対し、その様な社会を作った我々には責任があるのです。


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